シンガポールにおける広域3次元地質モデリング
<概 要>
国土面積が狭いシンガポールでは,地下空間の有効活用が国家戦略として考えられており,実際にその必要性が増し開発が増えている.地下開発に先立ち地質状況を理解するために,5つのエリアで地質調査を実施し,3次元地質モデルを構築した.また,大深度地下の開発に適した場所を見つけるために,3次元ハザードマップを作成した.
シンガポール島の約40%をカバーした広域3次元地質モデルの構築について,その成果を紹介するとともに課題を報告する.
1.はじめに
近年,シンガポールでの地下空間の有効活用の必要性が高まり,開発が増えている.シンガポールの基盤岩は主として三畳紀のブキティマ花崗岩(BT)と三畳紀~ジュラ紀のジュロン層(JF)の堆積岩で構成されており,後者には北東-南西の圧縮場による褶曲・断層が多く認められる.過去の地下開発工事で起こった事故は,地質状況やそれに伴うリスクの理解不足によるものである.
地下開発に先立ち地質状況を理解するために,2012~2017年にかけて,シンガポール建築・建設庁(BCA)の依頼で,基礎地盤コンサルタンツ(株)が5つのエリアで地質調査を実施し,3次元地質モデルを構築した.作成した3次元地質モデルは英国地質調査所(BGS)による照査を受け,2018年に完成した.
3次元地質解析システムとしてGOCADを使用し,トレーニングを受けた地質技術者とオペレータがモデリングを実施した.
2.使用した地質情報
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深掘りボーリング(掘進長100~200 m主体, オールコア):約170地点
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ボーリング(掘進長30~70 m主体):約13,200地点(公共データおよび民間データ)
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弾性波探査結果(探査深度300~500 m):約155 km
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公表地質平面図・断面図,地質記録
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空中写真
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地表地質踏査結果
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原位置試験結果
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物理検層結果
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室内試験結果
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DEM,DTM
3.ワークフロー
4.構築した3次元モデル
① 地質モデル:地層(地質構造)と断層の3次元分布
② 地盤工学的モデル:風化区分および岩盤分類(Rock Mass Rating, RMR)に基づく
③ ハザードマップ:ハザード指数による相対的・概略的な地盤災害リスクの可視化
ハザード指数は,岩種・RMRクラス・断層/褶曲からの距離に応じて決めたハザードスコアの総和.算出したハザード指数をフェンスダイアグラム上にカラースケールで表示した.
5.品質管理
◆入力データの妥当性・整合性チェック
入力データセット毎に,その妥当性や整合性を3次元上で確認し,一覧表に記録した.チェック結果に基づき,ボーリングデータ
を信頼度で以下の3区分に振り分けた.
区分A:信頼度高.ほぼ全項目が適切に明記してあり,その妥当性が確認されたデータセット.モデリングに使用.
区分B:信頼度中.妥当性・整合性を判断するための項目については最低限記載があり,妥当と判断されたデータセット.
モデリングに使用.
区分C:信頼度低.モデルへ組み込まない.
◆記載基準の統一
強度・風化区分の記載基準が既往調査と今回調査で異なったため,既往調査での区分を今回調査で適用した基準に基づき再解釈
した.
◆メタデータの作成・納品
◆BGSによる第三者照査
モデリングの入力データおよび地質学的解釈、構築した3次元モデル自体についての照査
6.シンガポールでの3次元モデルの利活用と課題
◆3次元地質モデルの利用
地質データベースとして利用
シンガポールの複雑な地質・地質構造を理解・解釈するためのツール
◆3次元ハザードマップの利用
大深度地下開発の適地の選定に利用できた.
しかし,ハザード指数の算定について定量的手法の更なる研究が必要.
また,断層や褶曲の影響範囲を推定するための調査データが少ない.
◆3次元モデルの限界
モデル範囲の面積は約300 km2に及ぶが,その範囲に約170本の深掘りボーリングしかない.また,用地占有許可の関係で調査地点の分布には偏りが見られる.結果として,深掘りボーリング間の距離は0.5~3 kmとなっている.さらに,弾性波探査は最大で深度500 mまでカバーしているが,深掘りボーリングのほとんどは深度200 mまでしか掘進していない.地質情報が少ない部分は特にモデルの不確実性が増し,信頼性が損なわれている.より多く,深く,ボーリング調査を実施することでこの課題を軽減することができる.
参考文献
◆Tomohiro Yasuda, Khun Tun Lu, Lau Chui Leh, Kiefer Chiam and Lau Sze Ghiong (2019). “Development of 3D Geological Model of Singapore”. Japanese Geotechnical Society Special Publication Volume 6 Issue 2, 67-72