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地下水解析のための3次元地質モデル構築例

 <概 要>

山岳トンネルを対象とする3次元地下水解析を実施するにあたり、地下水解析モデルを構築するために使用する3次元地質モデルを構築した例を示す。

1.「3次元地質解析マニュアル」Ver.1.0 R.T-8 数値解析 の記述と本例の対応

3次元地下水解析における3次元地質モデルの利用
3次元地下水解析の実施には3次元地下水解析モデルが必要である。3次元地下水解析モデルの構築に使用する地形情報、地質情報等は3次元地質解析によって作成される。3次元地下水解析には次のような目的・用途が想定される。これらの目的・用途や計算に使用するソルバ、計算マシンのスペックに応じた3次元地下水解析モデルを構築することになる。
 ◆工事などの影響予測、対策検討・評価
  ・トンネル掘削や切土による地下水位低下・湧水量減少・沢涸れ 等
  ・掘割構造物の構築や矢板貫入にともなう地下水位低下や流動阻害 等
 ◆水資源量評価
  ・井戸の採水可能水量 等
 ◆汚染予測、対策検討・評価
  ・地質・地下水汚染の汚染物質の流動・拡散 等
  ・海岸付近の掘削にともなう塩水流入 等

 

3次元地下水解析モデルを構成するデータには次のようなものがある。このうち、①と②は3次元地質モデルに基づいて作成し、その他はソルバまたはプリプロセッサで作成することが多い。
 ①構造データ
  ・節点座標・要素構成、格子点座標など
 ②材質分布データ
  ・要素または格子点毎の材質=地質など=分布
 ③物性値データ
  ・各材質の水理物性値
 ④初期条件データ
 ⑤境界条件データ

本例の目的
山岳トンネルの建設に伴う周辺の水文環境への影響評価
(沢涸れ・流量減少、井戸涸れ・水位低下等)

本例の成果物と用途
地形、地質境界、トンネル他のTinサーフェスモデル
 →材質情報を含む有限要素メッシュの構築に使用
   Tinを組み合わせたソリッド内をメッシュ分割

3次元地下水解析における課題
ⅰ)解析領域と地質データ分布範囲
3次元地下水解析の解析領域は境界に妥当な水理境界条件が設定できるように決めることが多く、地質データの分布範囲とは必ずしも整合しない。
 解析領域が当該プロジェクトで得られている地質データの分布範囲より広い場合、分布範囲外のデータを収集することになる。その場合、データ間の不整合や精度の管理に留意する必要がある。

ⅱ)メッシュ規模
計算に使用するソルバの制約、実用的な計算時間との兼ね合いなどにより、3次元地下水解析モデルの規模(節点数・要素数、格子点数など)には上限がある。そのため、関心領域の計算格子において解像度を変化させることがある。

ⅲ)メッシュ形状
差分法メッシュの場合は原則として立方または直方格子となる。
有限要素法メッシュの場合は要素形状の制約は比較的少ないが、扁平率が大きい要素は好ましくないなどの制約がある。

課題に対する本例の対応
ⅰ)事業初期に作成された広域地質平面図、その作成時に参照されている文献を使用してトンネルから離れた領域の地質分布、境界の位置、形状、種類を推定した。
ⅱ)トンネルから離れた領域、地下深部の分割を粗くするため、Tinを構成する3角形を大きくした。
ⅲ)Tin作成時に扁平な3角形ができないように注意した。

2.山岳トンネルを対象とする地下水解析のための3次元地質モデル構築の着目点と考え方

dia_図1.png

※ワークフローの各要素の詳細は「3次元地質解析マニュアル」「4.2 ワークフロー」を参照

3.山岳トンネルを対象とした地下水解析のための3次元地質モデル構築

モデル化範囲
本例では地下水解析の解析領域を図1に示すとおりに決め、3次元地質モデルの構築範囲はこの解析領域と同じにした。
地下水解析の解析領域は境界条件の設定を考慮し、次に示す位置を外郭とすることが多い。本例では下記の位置を外郭とした。

なお、4トンネルを3つの解析領域に分けている。

・河川、谷筋、尾根筋(水の出入りがない)
・海岸、湖岸、大きな河川(水位が一定または決められる)

【南北境界】
・(前提)既往検討による影響予測範囲より外側
・(前提)評価対象(沢+集水範囲、井戸、湧水点)の分布範囲の外側
・南に十分離れた位置にある河川
・南に平地を挟んで山列がある区間はその東西方向の尾根筋 
・路線を横切る河川・谷筋の流域北限の尾根筋
・遠方から流下する河川については狭窄部を形成する尾根筋
【東西境界】(3領域相互の境界も含む)
・路線の明かり区間を横切る河川
・河川がトンネル範囲から東へ遠ざかる区間は南北方向の尾根筋

その他留意点
本例の地下水解析では沢流量、井戸・湧水点水位を評価する必要があるため、地形面のモデリングにあたって次の点を重視した。

・評価対象の沢が適切な形状になっていること
・評価対象の沢の流域の分水界が適切な位置にあること
・評価対象の井戸の位置の標高が井戸の地盤高に合っていること
・評価対象の湧水点の標高が当該位置の標高と合っていること

dia_図2.png

図1 地下水解析の解析領域と既往調査範囲

地山区分
地質ごとの透水性、断層の規模や性状を考慮し、地山区分は表1に示すとおりとした。3次元地質モデルの地質境界面としては、この地山区分境界の3次元サーフェスモデルを構築した。
透水性の観点で断層をみると、破砕帯沿いに水が流れやすい場合、粘土化した破砕帯が遮水層として働く場合の両方がある。これらの状況に対応できるように、断層を厚みを持たせた層としてモデル化した。

表1 地山区分

dia_表1.png

構造物
トンネル施工後の予測解析も実施するため、解析対象となる次の構造物も3次元サーフェスモデルを構築した。

・トンネル壁面
・注入範囲外郭面(トンネル壁面からの距離で設定)
・切土面

地質データの補充
本例の対象路線で詳細な地質調査・解析が実施されている範囲は路線の両側0.5~1kmであった(図1で地質区分による色が塗られている範囲)。一方、地下水解析の解析領域は路線の両側2km程度である。そのため、詳細な地質調査・解析が実施されていない範囲の地質モデルも構築する必要があった。このため、3次元地質モデル構築の前に、以下に示す地質データの補充を実施した。

◆使用したデータ
・事業初期に作成された広域地質平面図
・広域地質平面図作成時に参照された文献

◆実施した作業
【地質分布(被覆層)】
・地形も考慮して被覆層(rd、dt、tr、Ha)の分布範囲、下限位置を推定
【地質境界(断層)】
・広域地質平面図の外郭まで延びている南北系断層を更に延長
・長くて屈曲しているN断層、K断層の傾斜を適宜推定
・傾斜が不明な断層の傾斜を推定
【地質境界(その他)】
・A層群、M層群内の境界を南へ延長

 

3次元地質モデル構築
本例の3次元地質モデルは次のデータをTin補間して構築した(図2、地質境界面(その他)と切土面は非表示)。

◆地形面
・等高線、標高点、河川・沢筋・尾根筋の連結線
・路線の地盤高、ボーリング孔口、井戸・湧水点の地盤高
◆地質境界面(被覆層下限)
・地形標高を設定した分布範囲外郭線、内部の推定下限線
◆地質境界面(断層)
・地形標高を設定した地質平面図の断層線上に配置した傾斜線
 (厚み分ずらした位置に配置)
◆地質境界面(その他)
・地質平面図・断面図から推定した境界面コンター
◆構造物
・トンネルの縦断線形上に配置した横断形状線
・切土形状線

 

dia_model_bv_trim.png

図2 構築した3次元地質モデル(地形面、断層面、道路線形)

地下水解析メッシュ構築
本例の地下水解析メッシュは次の手順で構築した。

①地形面、地質境界面、構造物のサーフェスモデルを相互の交線で分割
②分割したサーフェスモデルから特定領域を囲むものを集めてソリッドモデルに統合
③ソリッドモデルの内側をメッシュ分割
④全領域のメッシュを統合して地下水解析メッシュ完成(図3)

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図3 構築した地下水解析メッシュ

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