<概 要>
急傾斜地崩壊防止施設設計業務に伴い、通常の委託業務にて取得する平板測量データ、地質調査データを用いて対象斜面の3次元地質モデルを作成した。3次元地質解析マニュアル(以下マニュアル)P.280 U-T.5 急傾斜地項に記載の課題に関して作成事例を示すとともに、苦労した点や問題点を紹介する。
1.目的
急傾斜危険個所における地質調査は、次の目的で行われる
◆不安定土塊の分布を把握し、崩壊の規模、崩壊深を決定
◆対策施設の支持地盤の分布を把握
◆急傾斜地の対策施設施工に伴う地形改変の影響を把握
◆対策計画/設計/施工/維持管理を行う
2.3次元地質モデル構築上の課題
3次元地質モデルを作成する際の課題を示す。
◆表現するエリアは狭いが、実測データによる微地形の正確な表現が必要である
◆微地形に加えて構造物(既設擁壁、石積み)などの表現が必要となる
◆対策施設の計画や施工計画の図面をひずみなく貼り付けることが必要である
◆微地形、斜面と保安物件、対策施設計画と斜面の関係が表現されている
◆地層の分布が浅いものや薄いものまでわかりやすく表示できる
◆崩壊深は斜面直角方向(法線方向)の深さで表現する必要がある
◆ブロック別の崩壊深がPC上で計算、抽出できる
◆傾斜で斜面範囲を自動的に抽出できる(急斜面の上端を明確にする)
◆簡易貫入試験の調査ポイントの座標管理が難しく、正確な位置の再現に注意が必要となる
◆多くの簡易貫入試験データをスピーディーにデータ化する必要がある
◆施工開始後、地層分布や支持地盤が想定と異なっていた場合、早急な修正作業が必要となる
◆工事用道路等の付帯構造物は、地質調査が実施されない場合が多い。斜面の地質判定に役立つことも
あり、より多くの地質情報収集が望まれる
3.3次元地質モデル化対象斜面の紹介
長さ 約100m×100m 高さ 約80m
斜面下部は地形改変され、構造物(石積)が施工されている
斜面中部~上部は急斜面で、斜面中に段差、石積、露頭が分布
狭い範囲の中で地形が細かく変化している
4.利用データ
5.利用アプリケーションと使用PC
(3次元地質モデル化を意識していない、通常業務において取得したデータを使用)
・測量図面(平板測量、横断測量)
・簡易貫入試験 10測線 43箇所
・五大開発 MakeJiban
・Windows7Intel(R)Core(TM)i7-4790 CPU 3.60GHz
実装メモリ 16.0GB 64Bit オペレーティングシステム
6.モデル化のフロー
3次元地質モデル化の範囲決定
↓
平面図データの3次元化
平面図コンターに高さを与える
ドロネー分割にて面作成
↓
簡易貫入試験データの入力
試験実施地点のチェック
座標、高さデータの読み取り
試験結果のXMLデータ作成(地層区分)
↓
地層境界深度データによる境界面の作成
各試験ポイントを結線
↓
測量、地表踏査における露頭の平面境界作成
測線がない部分の平面境界を指定
露頭の分布位置確認
↓
表現方法の決定
踏査結果の貼り付け、測線断面図の作成
境界面の表示など
7.作成例
【個別横断面図】
図左 SP48.5測線
実測横断面図より作成(最急勾配線の影響で平面上は折れている)
図右 SP48.5測線
3次元地質モデルより48.5(1)と(2)方向に直線で断面図を作成
【縦横断面図表示】
図左 地層分布を縦横断測線で表現
図右 左図に地形を追加(透過)
細かい部分まで表現できていないが、斜面中央下部付近の不安定土砂層の分布状況がよく把握できる。地盤状況の説明用として効果的に利用できる。
8.苦労した点、問題点
8-1 地形の3次元化
等高線を利用した場合、段差地形や小さなのり面、石積み構造物など微小な部分のデータを作ることが難しい。作成事例では等高線データのみを利用している。形状を整えるために、高さを持つ補助線をこまめに配置してみたが、それでも、細かな地形を正確に表現することはできなかった。
8-2 簡易貫入試験のデータ化
入力データとしてXMLデータを柱状図作成ソフトで作成したが、Nc値(10cm毎)のデータが30cm相当に換算されてしまうため、グラフのデータが作成できなかった。
試験結果を配置すると、作成した地形データと、試験箇所の高さに少し違いが出ることから、突出やへこみが出る。
8-3 表現方法
斜面が急勾配であるため、モデル化した地形に平面図ラスターデータを貼り付けると、やはりひずみが生じる。
急傾斜地業務の場合、測線を最急勾配線とするため、折れ点が出るケースも多々あり、実測断面にとモデルから作成した地層推定断面に少し違いが生じる。地層が薄い部分は、表現しきれない。構造物は、別途オブジェクト作成により貼り付けなければ表現が難しい。
9.まとめ(マニュアルの課題を踏まえて)
急傾斜地の3次元地質モデルを作成する場合、取り扱う地形や地層のスケールが小さい(cm単位)ものとなる。よって、3次元地質モデル化を前提としたデータ収集計画を立て、通常業務+αのかなり細かなデータ収集を行う必要がある。調査測線間の狭い範囲でも地形、地層の変化が複雑であり、測線間の補完が非常に困難な状態になる。地形が詳細にモデル化できなければ、地質も反映できず、設計、施工への具体的な利用は難しい。そのためにはデータ収集のほかに技術者の熟練やアプリケーション特有のちょっとしたコツのようなもの(こうすれば地形が正確に表現できるなど)を知っておく、加えて構造物(家屋や既設対策施設)のオブジェクト作成までできるようになる必要がある。
一方、ある程度ラフな状態の3次元地質モデルでも大まかな地層分布の傾向を把握し、地質状況の説明や地質上の問題点、追加調査の提案に利用することは十分に可能である。設計に重要な崩壊深の設定や施工時の利活用については、より精度の高い地盤モデルの作成が必要である。
今回は、通常業務において収集できるデータをもとに、アプリケーション利用にあまり熟練していない技術者が3次元地質モデル化に取り組んだ事例をもとに、苦労した点や問題点を作例を示して紹介した。未熟が故の問題点もあるが、初心者でも活用できる方法やマニュアルの課題克服、今後の技術の拡大に向けて、解決方法などご教示いただけると幸いである。なお、業務データの使用を承諾いただいた発注者様に感謝いたします。 以上