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斜面の地質リスク共有ツールとしての3次元地質モデルの活用と展望

株式会社 愛媛建設コンサルタント

吉岡 崇  田窪  裕一  佐々木 誠  

 <概 要>

 3次元地質モデル(準3次元モデル)を斜面の地質リスク共有ツールとして活用した事例を紹介する.
 斜面に構造物を配置したり,地形の一部を改変する場合に,事業に大きな影響を与える地質・地盤的要因として,斜面の安定問題がある.計画,調査,設計の段階における,事業管理者,地質技術者,設計技術者間の地質リスクの共有と設計への効果的かつ適切な活用は,施工期間中の地質に起因する事業リスクを低減し,維持管理段階へと継続していくことにつながり,結果として効果的な事業の遂行に寄与する.
 しかしながら,地質構造が複雑な場合には,地質技術者のイメージを事業管理者,設計技術者と共有することが難しい.そこで地質調査結果を3次元上に配置し,より直感的にイメージを把握できるようにすることで,断層破砕帯や地すべりの位置関係についての情報共有を図った.

 また,今後3次元地質・地盤モデルを斜面評価,対策工設計へと活用する場合を想定してビジネスプロセスモデルを作成した.  

1.当該業務で発覚した地質リスク

当該業務は,砂防えん堤の詳細設計に伴う地質調査である.予備設計の段階において,右岸袖の地すべりについて着目するよう申し送り事項があったが,地表踏査を実施したところ,右岸斜面よりもむしろ左岸斜面の方がり地すべりのリスクが高く,幅100mに達する地すべり斜面の可能性が判明した.さらに,右岸斜面には断層破砕帯が想定された.

2.地質リスクの評価と情報共有のための3次元化

 地表踏査で懸念されたリスクを低減するために,構造物の詳細設計のための調査に加えて地すべり調査を追加して実施した.
 また,地盤傾斜計,孔内傾斜計,自記水位計による地下水位観測を実施して斜面の安定性を評価した.
 調査結果から地質リスクを一覧にまとめ,①事象,②想定理由,③発生のしやすさ,④想定被害,⑤想定される対策について記載するとともに,発生のしやすさと想定被害のマトリックスでリスクを評価した.
 地質調査の結果,右岸で断層破砕帯が確認されたほか,複数ブロックの地すべり,すべり面が確認されるなど地質リスクとなる要素の分布が複雑な状況であった.さらに計画えん堤は地すべりの懸念される左岸で袖がおられており,縦断・横断のみで,地質構造を正確にイメージすることは困難な状況であった.
 そこで,地すべりや断層破砕帯の位置関係を把握し,関係者の情報共有を図ることを目的として,調査ボーリング及び地質断面図を3次元配置して準3次元地質モデルを作成した(図-1)

愛媛建設c_図1.png

図1 情報共有を図ることを目的として作成した準3次元地質モデル

3.3次元地質・地盤解析技術を用いた斜面評価,対策工設計

 上記の例は,準3次元地質モデルを作成して,事業管理者,設計技術者との情報共有を円滑にする試みであったが,今後,設計の3次元化が一段と進んでいくと,斜面評価,対策工設計に3次元地質・地盤モデルが活用される機会が増えるものと思われる.
 3次元ビジネスプロセスモデリング表記法(BPMN)による,3次元地質・地盤解析技術を活用した斜面評価,対策工設計のプロセス(概要)を図-2に示す.計画,予備設計,詳細設計とそれらに付随する各種調査は,別業務として分割される事例が多いが,ここでは,事業全体の流れを一つの業務にみたてて,斜面の評価,対策工設計までの流れを表現した.大まかな流れとして①資料収集・業務計画,②調査実施・調査結果の整理,③斜面の評価(地質リスク分析),防災計画の作成,④3次元地質・地盤モデルの作成,安定解析・数値解析,⑤対策工設計(予備)のフェイズに分割し,それぞれの段階において発注者との協議等を設定とした.

愛媛建設c_図2.png

図2 簡略化した3次元地質・地盤解析技術を活用した斜面評価,対策工設計のプロセス(概要)

4.まとめ

 地質情報の3次元化は,地質技術者のイメージをより具体的に,事業管理者や設計技術者と共有を図るツールとして有効である.
 今回は,関係者相互のリスク共有が目的であったため,最低限の3次元化としてボーリングや地質断面図を3次元空間上に配置した準3次元モデルを用いた.このような簡易なモデルであっても,地すべりや断層破砕帯の位置関係を把握するには十分であり.今後調査を追加すべき地点についても明確になる.
 今後の工程で斜面安定問題を検討し,対策工を設計する際に,地質境界面やすべり面,地下水面などの要素を3次元化するメリットは大きい.これらの要素を3次元化することで,3次元の斜面安定解析や対策工の設計が可能になる.地すべりなどの側面に対する影響評価や対策は,基本的に2次元の検討では困難であり,3次元で検討すべき項目である.また,抑止工などの配置や定着層のイメージも3次元で表現することで,情報の共有不足による施工段階の不具合やトラブルを未然に防ぐことが期待される. 
 本事例のように,詳細設計段階にで,設計内容に適応した内容の調査ボーリング調査,現位置試験等の地質調査を行っていく中で,リスクが顕在化する場合がある.計画・概略設計段階から地質技術者を積極的に活用し,早期に地質リスクの把握に努め,建設プロセスの段階を経るごとに,地質リスクを低減していくことが望まれる.

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